中堅・中小企業におけるCIOとしての役割とは

2007/03/31

 
■はじめに
 CIO(Chief Information Officer:情報化担当役員)という機能・人材は、大企業においては位置づけられ機能しているが、中堅・中小企業においては、存在していない企業や存在していても十分機能していない企業が多いのが実状である。しかし、今日、中堅・中小企業においても競争力を強化し勝ち残っていくためには戦略的なIT活用は必須であり、それを推進する人材も必要不可欠になってきている。
そこで、CIOとはどのような機能を果たさないといけないのか、そのポイントについてCIOを育成する研修の講師を担当した経験から説明したいと思う。

■CIOの役割
 CIOとは、Chief Information Officerの略で、最高情報責任者、情報化担当役員と訳されます。これまで経営者や役員はITについてわからない人が多く、また、情報システムを担当する責任者は経営のことがわからないという状況であったが、今日、戦略的な情報化の重要性が高まり、経営と情報化の両方がわかり戦略的情報化を推進統括する人材の必要性が益々高まっている。それは大企業のみならず、中堅・中小企業においても、競争優位を保つための経営戦略・経営改革のための戦略的情報化が重要となってきており、これを実行推進できる人材がいない現状から、その必要性が益々高まってきている。
では、CIOとはどのような役割をもつのだろうか。大きく次のように考える。

1.戦略的情報化は経営戦略ありきである。よって、経営戦略策定を経営者とともに
  実施する。その際、どこをIT化すれば、その成果目標達成に最も効果を発揮するかを
  検討する。
2.策定された経営戦略に基づき、戦略的情報化を策定する。
3.策定された戦略的情報化企画に基づき、プロジェクトとして計画から実行、そしてIT導入
  までマネージメントを行い、導入後も成果モニタリングを通して、企業が継続的成長発展
  をするようにPDCAサイクルを回すように推進する。

では、それぞれについて、方法論やスキル等の詳細はまた別の機会にするとして、ポイントを以下に述べる。

■経営戦略策定
1.成功の3条件
 会社が成功するためには、3つの条件があると考える。第1は会社の目標をしっかり定めることである。どういう会社を目指すのか、会社の成し遂げたいこと、ビジョンを描くことである。売上や利益目標など具体的に会社の目標を指し示すことが重要であり、経営者が示すべき目標である。

 第2は会社の現状を認識することである。現在、会社はどのような状態にあるのか、会社の強みは何か、弱みは何か。また、外部の環境変化により予想される機会はどんなものがあるか、逆に脅威となるものに何があるか。会社の内部環境・外部環境を分析することである。以外と自社の強み、弱みはわかっているようでわかっていないことが多い。あまりに近すぎて当たり前になっているので、それが他社から見て強みであっても、中からは気づかないことが多いものである。

 第3は目標へ向かう熱意・情熱である。いくら目標があっても、社長以下全社員がそこへ向かう熱意・情熱がなければ成し遂げられない。社長だけがあっても、あるいは社員だけがあってもできない。全員が目標を達成しようという熱意・情熱を持って取り組まなければならない。
これが成功するための3条件である。このうちのどれかひとつが欠けても成功することはできない。

2.4つの合意形成
  3つの条件が揃ったら、社長と社員全員が合意形成することが大事である。その大事な合意形成に4つあると考える。
 1つ目は目標である。社長も社員も全員がその目標を自分の目標として捉え、全員で向かうべく合意することである。
 2つ目は現状認識。会社の現状は「?である」ということを全員で正しく認識することである。
 3つ目は目標を達成するために、あるべき姿、達成すべき課題である。経営目標を達成するためには「?するべき」をしっかり定め、合意することである。
 4つ目はそれを実現するために「?する」という行動計画である。「?するべき」を掲げただけに終わらせないように、具体的な行動計画を立てて全員で合意することである。
 この4つをまとめたものが経営戦略企画書である。

 CIOの役割は、この3つの条件と4つの合意形成による経営戦略策定において、常に参画し何のための情報化であるかを十分認識し、情報化により最大の成果を挙げられるようにIT知識を踏まえ、提言していくことにある。ここをポイントとしておさえていないと何のためのIT化がわからなくなり、折角作っても経営に役立つシステムとならない。そのために常日頃から会社の状況を認識するとともに、経営とITの両方に関しての知識や世の中の動向について学習研鑽する必要がある。

■戦略的情報化企画
 上記により策定した経営戦略企画書に基づき、次に戦略的情報化企画を策定するのであるが、では、戦略的情報化とはどの様に考えればよいか。
それには、それぞれの企業のIT化のレベルによるが、まず、ITが動かないレベルであれば正しくシステムが動くレベルにしなければならない。実はまだまだ中堅・中小企業においては、システムが動かない、一部しか使っていないという企業が多くある。そのような企業は、まず最低限、システムが正しく動くレベルにしなければならない。次に業務を効率化するというレベルである。業務が効率化され人件費などコストが削減されるという効果を生むレベルである。
しかし、周りの企業も同じようにシステム化を行っている今日では、業務効率化に留まらず、業務改革と一体となった情報化が重要なのです。本来、あるべき業務プロセスの実現を促し、支援するためのIT活用です。業務改革とITは別々になされるものではなく、一体となってこそはじめて実現されるものです。
そのためには経営目標実現のためのあるべき業務プロセスをトップダウンで設計していかなければなりません。それをITによりスピーディに、より低コストに実現するのです。
よいシステムとは経営目標の達成に役立つシステムであり、経営課題の解決を促進し支援するシステムです。そして、経営目標に至る、あるべき姿や経営課題解決の達成度合い、指標をタイムリーかつ正確に捕捉するシステムなのです。

■プロジェクトマネージメント
 戦略的情報化企画が策定できると、それをプロジェクトとして計画から実行を行い、ITシステムの開発から本番稼働まで、目標を達成できるようにマネージメントし導かなければならない。またシステム導入後もシステムが正しく稼働しているか、当初の目標成果を達成できているかどうかをモニタリングしていく必要がある。そのためには、プロジェクトマネージメントについて、知識、スキル、ツールや技法を身につけプロジェクト活動に適用していかなければならない。
知識はPMBOKの知識体系が代表される。また、マネージメントスキルについては、リーダーシップやコミュニケーション力や交渉力などが挙げられる。ツールや技法では、CPMやWBS、EVMなどの様々なツールや技法があり、それぞれの用途・目的に応じて活用する。それぞれの具体内容は今回省略するが、これらの知識・スキル・ツール等を活用し、プロジェクトの品質、コスト、タイムをバランスさせながら、すべてのステークホルダーが納得と共通認識ができるように推進し、プロジェクト目標を達成させることが、CIOとしての重要な役割である。

■企業の推進エンジンたるCIO
 ここまで説明してきたように、CIOは経営者とともに経営戦略を策定し、経営目標を達成するための経営課題と行動計画をまとめ、戦略的情報化の企画および実行により経営目標を最も効果的に達成することが役割なのである。まさにその推進役であり、エンジンである。そのために必要な知識やスキルを身につけるのである。
特に今日、戦略的情報化が企業にとって経営目標達成のための重要成功要因になっていることが多く、戦略的情報化の構築そのものが経営目標達成には不可欠な状況において、CIOの役割はますます大きくなっている。私達ITCは、企業の継続的発展のためにいろいろな場面で支援をさせて頂くが、まさに外部からCIO的に支援をするといっても過言ではない。ITCの役割や期待がさらに大きくなっている中で、一つ一つの企業支援のITC活動が重要な役割を果たし、ITCの存在価値と知名度を高めていくものと確信している。


  ITコーディネータ/吉村 哲也

ラベル:


中小企業における内部統制とIT化について

2007/03/17

 
ITコーディネータ 武島 直行(No.00002711)

はじめに

 2008年J-SOX法の施行に伴い、昨今では金融業界のみならず、あらゆる業種の上場企業では当該法律に対応する方策や試行を通じて、“内部統制”という亡霊につきまとわれているように見受けられる。
一体、J-SOX法のどこが大変で、何故いまさらながらに“内部統制”なのか?
そもそも、上場するためには、一定の水準以上の財務力やビジネスモデル及び組織管理能力(内部統制も含む)が備わっていることを厳しく審査され、毎期毎に報告するというサイクルで運用されていたように記憶しているのだが...
一方で、上場企業をはじめとする世間では一流と称される大企業の騒動を間近に見ている中小企業においても他山の石的に傍観はしていれない、と考えるのは起業者を中心とした中小企業家の一致した見解と思われる。
 今日は、先に触れたJ-SOX法の対処についてではなく、中小企業をはじめとした、一般の企業において、なすべきことを定められたルール通りに行って、その行為が法規範にも触れていないことをチェックしていくサイクル作りをどのように考えて行えば良いか、に関して触れようと思う。

序論

“有るべき姿”とは、“なすべきこと”とは
どこの会社に伺っても大抵は「経営理念」や「経営方針」とか「社是」のようなその企業が企業活動するにあたって理念なり、目標とすることなり、方向性なりを簡単にまとめている。
これを実現するための社員の行動の標として「行動規範」や各種の規則・規程を作成している。最も、社長が行動規範だ、という企業も確かにある。いずれにせよ、何らかの物差しをもって活動を行っていることは確かである。
すなわち、企業の理念の中に“有るべき姿”を見出し、その活動の拠り所・考え方の中に“なすべきこと”を見出すことができそうである。
では、そこに見出す企業の姿が社会にどのように映っているのだろうか?
また、その活動の正当性はどのように確保されるのだろうか?
ここには、企業活動と社会との関連、例えばその企業の設立「意義」・「存在目的」がどのように意識され、どのように実践されているのか、ということが問われているように思う。
以降、企業活動の成り立ちから運営、ビジネスモデルを通じて、その企業の目指すところとITの位置づけといった流れで考察を進めていこうと思う。

本論1

「起業にあたって」
どのような規模の企業でも、初めから存在したわけではない。必ず、起業者がいて、少しずつそのビジネスモデルを確立していき、社会での認知度を上げて、今日の成功を収めている、と考える。
起業に当たって、その考え方は千差万別で、必ずしも社会への貢献や利益をもたらすことを目標としているとは言えない。単に、会社勤めが性に合わないから起業した、あるいは、自分のやりたいことをするために起業した、ということも十分に考えられる。ここに共通することは、いずれも既に確固としたビジネスモデルすなわち利益をあげる仕組みを見出し、その実践において単独あるいは少人数で行う用意がある、ということか。
だが、そのような会社?でもその事業規模が拡張するに及び、規模はともかく、組織を作り、これを運用していく過程を踏むことになろう。大方の起業はこの辺りで転換期を迎えるものと思う。
さて、話を元に戻そう。「起業」するにあたって、経営者は自分の思いを“経営理念”に活動の方向性を“経営方針”等にまとめていく。そうでなくとも、何らかの意思表示を“文字”に表すであろう。この時、社会に貢献する、あるいは、自社が繁栄することで社会に何らかの貢献ができる、などの言葉がキーワードになっているように感ずる。そうなるとその行動規範も反社会的にはならないだろうし、どこの企業も同様な内容になっているものと考える。
そうすると、それに基づいて活動している企業人が何故、反社会的行動を犯さなければならないのだろうか?
それとも、当該反社会的行為をそのように思えなくなってしまっているのだろうか?この点に関しては心理学的な犯罪学的な要素も多く、今回の考察には不向きと考えたく、ここでは割愛したい。

本論2

「ステークホルダー」

 今、巷で話題になっている上場企業の悩みの多くは株主をはじめとする利害関係者(ステークホルダー)との関係、特に株主との位置づけが俄に重要視されてきていることと、情報の公開に関する今まで経験したことのない責務への対応の仕方を模索していることにあるように感じられる。
 最近の事件の多くは、株主をはじめとして社会に対する情報公開(従来は財務報告が中心であった)における虚偽が中心で、これを企業ぐるみで行っている点である。あるいは、見た目を良くしたいが為に利益操作を行なう、という事件が多発しているようである。
 実は中小企業においてもこのことは他人事ではない。むしろ、大企業よりも如実な問題ではないか?
金融機関からの貸し付けを可能とするのは、その企業の財務体質であり、株式を公開していない限り財務報告は不要だが、どのような企業でも納税時には最低限の財務会計資料を提出しなければならず、収益をあげているか否かは明確になる。
先に触れたが、企業の存在意義によってはここで“待った”がかかると言っても過言ではない。
毎年赤字を出し続ければその企業では納税はおろか、社員に給与さえ支払えないこととなり、社会的にはその企業の存在価値は無くなっている。当然に淘汰されていくと思う。
これまでは、利害関係者として外部、例えば株主や出資者ばかりが取りざたされ、内部の利害関係者(社員等)や広い意味での外部、すなわち社会全体といった部分への考慮がなされていなかった場合が多い。
従って、世間にあるいは公的組織への報告すなわち財務報告に心血を注いできたと言っても過言ではなかろう。
ここでは、ありのままの姿を見せることが重要で、誤っても虚偽や隠し事は言語道断であるということは自明の理であるにもかかわらず、何故後を絶たないのであろうか?
利害関係者の枠を本来あるべき姿に捕らえ、その中で誠実に企業活動を行っていくにはどのようにすれば良いのか、これはあらゆる企業家の悩みなのではなかろうか。

本論3

「なすべきこと」

 企業は収益をあげることが史上の使命である。
 その収益は、企業がさすべきことを当然に行って、有るべき姿に向かっていくことで積み重ねていくことが理想であり、また、そうでなければ存在し得ないと前にも述べた。
では、「なすべきこと」とはどのような事でどのようにすれば見つけられるのであろうか?
 大相撲で“強い”力士には共通点がある。それぞれが、このように取り組めば九分九厘勝てる“形”を持っていることだ。別に必殺技ではない。立ち会い・組み方や得手不得手も含めて、この形に持ち込めば勝算が格段に上がる、という形。当然、最初からその“形”に持ち込めば楽に勝てる、ということだ。
 企業活動においても同じ事が言えないか?巷で言う、“ビジネスモデル”などはその類ではないかな。
その企業の得意技だけで勝負できれば、ほぼ負けることはないだろうが、相手も取り口は研究してくるし、相手の不得手を突いて勝負してくるだろう。そのためには、将棋のように相手の差し手を予想してそれぞれに対する差し手を考えて、如何に自分に有利な展開に変えていくか、すなわち、自分の得手の世界に引き込んでいけるか、がポイントで、そのための組織活動が「なすべきこと」であり、そのパターンこそが、当該企業の“ビジネスモデル”になっているのではないかと考える。
 したがって、“ビジネスモデル”が明確で判りやすい場合にはその遂行に関して、細かいルールや決め事を付加していけばよい。そうでない場合には、まずは自社の収益の構造を分析し、理解して、ここで勝負するための企業活動を探って、“決まった形”を創造する必要がある。それは、無理をすることを強いるのではなく、無理なく進められる内容、すなわち多少の余裕をもって行えることが望ましい。実際には想定通りには進まないもので、そのような場合に無理が効かないと絵に描いた餅に止まってしまうだろう。
 私もいろんな企業あるいは個人のビジネスモデルに遭遇してきた。別の機会にこれらを紹介できたらと思う。

まとめ

「自浄作用」

企業の行動原則に関して考察してきたが、人間全てが“善”であることは考えられない。いや、そうであるとしても24時間365日“善”であることには想像もつかない苦痛が伴うのではないか?残念ながら私も弱い人間で、1日の内で“善”で有り続ける時間は数時間としか言えない。“悪”になると言う意味ではないが、よく、“?しておけば、すれば良かった”と後悔する場面では“善”になりきれなかった事に対する反省が占める割合が多いように思う。
 どうすれば、この人間の欠陥?を補佐できよう?
 人間も千差万別であることを考慮すれば、全ての人間が同じ事、同じ機会に同じ苦痛や悩みを持っているとは考えがたく、須く個人差があって然り。
と言うことは、他人にチェックされたり、見て貰ったりするポイントがあっても良いように思う。
ここに相互チェックの意味合いが生まれるのかな。
人間の弱さの比重でこの相互チェックを何十にも重ねていけばよいのではないか。
これが内部統制に通じる考え方ではないかと思う。
要は“なすべきことを”あたりまえに行うことと、行えるように手順(ルール)を決めること、そして、この仕組みが円滑に動いていることを他人の目でチェックし、是正し、改善していくことが内部統制の考え方といっても良いように考え、私はその仕組み作りを中小企業家と行っていく考えである。


追記: この一連の仕組み作りの中でいかにしてIT技術を活用できるか、ITCとしては悩みの種ではある

ラベル:


成功事例にもとづくITCのためのERP導入実務(その1)

2007/02/18

 
1.はじめに

  ITコーディネータとしての職務上、顧客企業からERP導入の支援を求められることは珍しくはないはずです。そのときみなさんはどのように顧客企業を支援していかれるでしょうか。もちろん、企業規模、導入目的、企業文化、業種、予算規模など背景の相違により、その進め方はさまざまでしょう。

  筆者は、最近自社におけるERP導入を統括し、幸い成功裏にかつこの種のシステム導入としては短期間に完成させることができました。このプロジェクトの成功要因(ITC的に表現すると“CSF”)を振り返って考えてみますと、一つひとつは「当たり前のことを実行する」に尽きます。しかしながら、実際の多くのERP導入は、当たり前のことを当たり前にできなかったために失敗したのではないでしょうか。当たり前のことを行って、あるいは行わせて、プロジェクトをリードする手腕こそITコーディネータにまず求められる責務であると筆者は考えています。
類似した業務に取り組まれるみなさんの参考となれば幸いです。

  なお、本稿では、具体的な名称や数値、商品名などは可能な限り伏せさせていただきました。より具体的な情報を求められる方は「まいど!フォーラム」を通してご遠慮なくお問い合わせください。

2.本稿で扱うフェーズ

  本稿では、まずERP導入プロジェクトの立上げからERP選定までのフェーズ進め方を述べます。その後、社内承認を経て実際の導入へと進むわけですが、後のフェーズに関しては続編に記述します。

3.事例対象とした企業とプロジェクトの概要

  以下は、筆者が取り組んだERP導入について、規模観をもっていただくための情報です。

(企業概要)
 企業規模: 年間売上げ 約600億円、 従業員数 1,500名、 
 業種: 
 製造業(工場設備)対象のエンジニアリングと建設工事、システム開発/保守

(プロジェクト概要)
 期間: プロジェクト立上げ から ERP選定 まで 4ヶ月
      ERP発注 から システム稼動 まで 9ヶ月
 対象業務: 
  事業の原価管理、調達、営業、経理、および決裁にかかわるワークフロー

(付帯状況)
 システムの専門部署を除いて、社内全般にITリテラシーは非常に低い。
 2社合併に伴う基幹システムの統合を兼ねる。
 合併前の2社ではそれぞれオフィスコンピュータで原価管理、調達、経理などを
 処理していた。

4.プロジェクトの立上げ  ・・・・・ プロジェクトとその方針を徹底的に周知する ・・・・・

  システム再構築の意思表明がトップから出されたのを受けて、対象、構築期間、進め方の手順など、企画書を作成しました。そして、社長が企画書を承認しプロジェクトをスタートさせました。

  プロジェクト立上げの宣言には次の項目を含めました。
 1) ERP導入の目的(原価管理の精度改善、仕掛り品の減少、など)
 2) 導入方針
  (ベストプラクティスを導入し自社の業務プロセスを改善する、など)
 3) 社長をトップに置いたプロジェクト体制と実務メンバーの明示と周知
 4) カットオーバー日を明示した工程
 5) 概略の予算

  プロジェクトの周知について: プロジェクトの立上げは社長自ら経営会議など社内で公式に宣言します。当該プロジェクトを知らないことが企業内では職務怠慢と見られるまでに、徹底したプロジェクトへの認知を、役員や幹部社員にしてもらう必要があるからです。ERP導入はトップダウンで扱うべき性格を本質的に持っています。なぜなら、多くの社員にとって業務の仕方は変わらないことが心地よく、変えることは個々の社員から必ず抵抗を受けるからです。ITCにとって社長以下の役員や幹部からの支持を得続けることがプロジェクトの成功に必須です。企業幹部にも、当然ですが、プロジェクトに対する義務感と責務感を持ってもらわなければなりません。プロジェクトへの協力義務について、社長や役員の口から折に触れて全社員に繰り返し発言されるようにITコーディネータが仕掛けることも大切です。
  1)と2)について:  プロジェクトの目的と方針はプロジェクト完遂まで絶対にぐらつかせてはなりません。事前に十分な議論と意識合わせをITコーディネータが社長および担当役員と行っておくことが大切です。またプロジェクトの途中でも目的と方針の再確認を社長以下と繰り返し行います。プロジェクト遂行の途中で必ず抵抗勢力が現れます。それをはねつける力を推進者はあらかじめ用意しておく必要があります。目的と方針の固守はそのための非常に重要な要素です。プロジェクトへの非協力的な姿勢、非協力社員は個人の人事的評価に悪影響を受けることをさえ社員と管理職に認識させる場合もあってよいと思います。
  3)について:  プロジェクトに直接参加する実務メンバーは社内で広く認知されるようにします。核となるプロジェクトメンバーは社内各部署の実務キーマンとうまくコミュニケーションの取れる専任者であるべきです。企業内各部署からも、兼任でよいから、部署要求を整理しまとめる責任を負う担当者をプロジェクトに加えてもらいます。
  4)について:  工程はリーズナブルである限り厳しい短期工程を設定し、かつプロジェクトメンバーで工程厳守の高い認識を共有します。これによりプロジェクトは常に緊張感を保って進められます。また、短期間であることは導入予算低減させるためにも非常に有効です。
  5)について:  概略予算は、調査により同規模他企業の事例を参考にセットします。他社事例を調べることは、ここで示す予算に説得力を持たすために必要なことです。プロジェクトに用意できる金額が他社事例の金額と比べて桁違いに合わなければ、計画を白紙に戻して組みなおすことが賢明です。

5.対象業務の分析   ・・・・・ ERPで何をさせるのか把握する ・・・・・

  このフェーズではERPでカバーされるべき社内業務を分析し文書化しました。これをここでは「業務プロセス分析書」と呼びます。今回の場合、プロジェクト立上げ後1ヶ月をかけて業務プロセス分析書を作りました。
  業務プロセス分析書では、現状の業務とあるべき業務をフロー図などに図式化します。この目的は、ERPで何を行わなければならないか、行わせたいか、ERPで何をさせるのかをプロジェクトメンバー全員が知るためです。ERPを導入し始めたものの、何をさせたいか具体的要求を表現できず、一方で「使いにくい」の大合唱に遭遇し、結局ERP導入が途中頓挫することはよく起こります。社内業務のどこをERPというツールに頼るのか、メンバーが認識を共有する必要があります。そのための図書が「業務プロセス分析書」です。ITコーディネータはこの文書作成を指導し、監査し、まとめさせます。フローは、通常多部門間にまたがる形になるため、部門それぞれがどのタイミングでどのような処理をするか記述させます。一例として、受注から設計、製作、納入、調整、完成検査、検収、売上げにいたる一連の社内業務プロセスがありました。 
  業務プロセス分析書に対しては、自らが作った要求という意識を対象全部門とプロジェクトメンバーに持ってもらいます。業務プロセス分析書をITコーディネータが勝手に作ったとか、自分たちは内容をよく理解していない、などと言わせてはなりません。自分の責任で作った自分たちのための分析であるという意識を企業の全部署に持たせるよう誘導します。
  なお、業務プロセス分析書において、いくつかよくある異常処理(例: 返品、紛失、クレーム処理、受注前の先行処置、など)にも触れておきます。この時点ですべてを記述する必要はありませんが、不完全でも異常処理を認識しておくことが重要です。
 
6.RFP作成とベンダー評価   ・・・・・ ERPベンダーの知恵をフルに使う ・・・・・

  次にERPベンダーに対してRFP(Request For Proposal)を提示しました。ここでRFPの内容とは、前フェーズで作成した企業の業務プロセス分析書です。ERPベンダーの中から企業規模や実績、知名度からいくつかの候補を抽出し、そこに対して業務プロセス分析書を説明します。ERPベンダーには、当社が説明した業務を自社製品を使ってどう実現するか提案させました。このフェーズに2ヶ月を要しました。
  これは非常に重要な進め方です。一言にERPといっても多くの製品が市場に溢れており、その中のどれが自社の業務に合うか使う側(顧客企業)やITコーディネータが自分で判断することは非常に困難です。業務分析書をERPベンダーに提示してベンダー側に考えてもらうことが時間の節約と正しい評価に非常に有効です。
  このフェーズでは次のようにプロジェクトを進めました。
 1) ERPベンダーからの提案書と見積書の提出
 2) 1次評価をして選考対象を絞ること
 3) 選考に残ったERPベンダーの製品を用いたデモ
 4) ERPベンダーの製品を既に導入した企業への訪問調査
 5) 予算と社内事情を考慮してERPでカバーする業務範囲の見直し
 6) ERPベンダーへの追加質問、見積範囲のレベルあわせ
 7) ERP評価表作成

  1)について:  ERPベンダーからの提案書には、どの範囲が当該ERPの標準機能によってカバーされ、どの範囲にアドオン(=追加開発)が必要かを明示させます。いわば荒いフィット/ギャップ分析をここで行っていることになります。言うまでも無く、アドオンが多ければ多いほど初期導入の費用が増加します。期間も余分に必要となります。アドオンされた部分でのバグ検証などシステムの信頼性も落ちます。導入後のメンテナンス、バージョンアップにも手間と時間と費用が余分にかかります。したがって、可能ならばアドオンなして導入できることが望ましいはずです。
  2)について:  選考対象を絞るのは、これ以降のフェーズでの評価の手間と日数を少しでも少なくするためです。
  3)について:  デモでは業務プロセス分析書に沿った業務イメージを各ERPベンダーに製品を使って実際に示してもらいます。各部署から派遣された兼務のメンバーも必ずデモに出席させます。このERP製品の評価のフェーズにおいても、限られたプロジェクト専任メンバーだけでなく、各部署からプロジェクトに入ったすべてのメンバーに参加意識を持たせる必要があります。そしてそれぞれのメンバーに判断を示させます。後のフェーズで、「自分の知らないところでERPを選んだ」と言わせないための重要な手順です。
  4)について:  導入企業訪問では、ERPの評判、導入時に生じた問題、問題に対する対策の工夫など、後フェーズで有効な情報を集めることができます。オリジナルのERPに問題があるとして、それをどのようにクリアできるのか目処を立てることも製品評価の項目の一つとなります。
  5)について:  ERPベンダーのデモや仕様、価格など総合的に判断して、本プロジェクトでどこまでの業務範囲をERPでカバーするか決断します。予算、期間、業務プロセス分析書とのギャップ、などを考えます。すべてのERPベンダーの提案で「業務プロセス分析書」とのギャップが大きいプロセスがあれば、今回の対象業務範囲から思い切って除外する決断も必要です。
  6)について:  見積範囲の精査など細かな詰めは専任メンバーとITコーディネータの連携で処理します。レベル合わせのための見積範囲調整、追加質問などを行って公平さを確保し、また技術課題の対処方法も提出してもらいます。
  そして、7)のERP評価表を作成します。

7.ERP評価表とベンダー決定   ・・・・・ 目的/方針を固守しつつ決める ・・・・・

  いよいよ導入するERPの選択について意思決定を行う段階となりなます。
評価項目は次のようなポイントとしました。
 1) 価格
 2) 当該ERPの特徴と今回の導入方針や目的との合致度当該ERPを選ぶことが、固持すべき当初方針や目的に合致した選択となるかどうか。
 3) アドオンのソフト製作量の大小、およびフィット/ギャップの評価。ERPの仕様や機能に要求との差異や問題がある場合にはその解決方策と費用・工期の概要
 4) 製品デモに対するプロジェクトメンバーからの評価
 5) ベンダー技術者の経験、資質と人数(=人的動員力)。ERP構築時に万一問題が発生した場合、要員を増強してリカバリーできるポテンシャルを評価する。
 6) ベンダー企業とERP製品の継続性。ベンダーが倒産する、ERP製品へのサポートを止める、などのリスク評価。

  これらの評価表を作成し、まずプロジェクトメンバー内での意識統一を行います。これも、「他のだれかが勝手に決めた。」という意識を持たせないためです。プロジェクトメンバーその意識合わせに基づいて書面にし、社内承認手続きを行います。

8.ERP選定までの結び

  以上が、ERP選定までに踏んできた各フェーズと進め方のポイントです。筆者の場合には、プロジェクトの立上げを宣言してから社内承認まで4ヶ月を要しました。選考対象としたベンダーは、当初6社程度。本格的な提案要請は3社に対して行い、最終選考は2社に絞りました。
  内容を見ていただくとわかるように、プロジェクトの立上げ、業務の分析、RFPの作成、ベンダー決定、それぞれに若干の工夫をしつつも、当たり前のことを手順を踏んで行ったに過ぎません。冒頭に述べたとおりです。目的や方針を振れさせたりせず、プロジェクトメンバー全員の当事者意識を維持しつつ、当たり前の手順や行動を着実に実行することがプロジェクトを成功裏に完遂するために必要であることを、改めて強調しておきたいと思います。

             ITコーディネータ 松下 悟 (まいど!フォーラム メンバー)

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