「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・4 |
||
2007/03/03 |
|
<はじめに>
これまでの考察で、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がITCの収益モデルとしていかに有効であるかという3つの具体例を挙げた。 ここまでは、検証ユニットの初期段階(1回転めから3回転めくらいまで)に比較的重点を置いてきたが、今回は、ユニットが4回転め、あるいは5回転め、すなわちIT化のプロセスが中盤以降にさしかったD社(不動産の有効活用支援)の事例を取り上げてみたい。 Y氏が関与しているのは、D社の事業の中でも特に有人立体駐車場の管理事業である。業界全体としてもほとんどIT化の顧みられない分野で、せいぜいPOSシステムを導入するくらいしかIT活用の取っかかりはないと思われた。 D社における検証ユニットの1回転めから3回転めくらいまでの経緯は、これまでの3つの事例とほぼ同じであるので、本事例ではその詳細は省略し、4回転め以降、Y氏の関与を通じて、D社の経営トップがどのようにITを企業文化として深化させていったか、そのプロセスを追うことにする。 <1回転めから3回転めまでの概要> 有人立体駐車場では、料金計算やPOSレジをきちんとシステム化しているところは極めて少数派である。平面の駐車場は、無人化することによって人件費節約効果が大きいため、システム化が進んだのであるが、立体駐車場のほうは、安全管理面の事情から「どうせ人が必要なんだから人にやらせたらよい」という発想になっていたのである。 Y氏は、このシステム化の遅れに注目し、料金計算とPOSレジ機能を一体化したシステムの導入をD社に提案し、その開発過程においてベンダーを指揮し、複数駐車場の顧客(車両)一元管理を軌道に乗せた。2回転めでは、利用者の利便向上に大きく寄与するマイレージポイント制の導入を提案、3回転めにはタイムカードシステムまでを統合した労務管理システムの開発をプロデュースした。そのプロセスがすべて順調に推移したために、D社の経営者は、ITの有効性を高く評価し、さらなる活用方法を自ら模索するまでになったのである。 <4回転めの留意点> 検証ユニットも3回転めを終えるころになると、どんな懐疑的な経営者であっても、IT推進者たるITCをかなり評価してくれるようになっている。疑り深ければ疑り深いほど、目の前で実際にやってみせたときの「目から鱗」状態は劇的であるともいえるのである。 そうすると今度は、特にITCがITの効用について説得しなくても、「ITでもっと他にやれることはないか」と経営者自身が自発的に考える姿勢になってくる。「自律成長過程」とも呼ぶべきフェイズ、ITCにとってはとても仕事がやりやすくなる時期がくるのである。 経営者は、これまで否定していた「流行りのツール」を、「華美な宣伝文句」に踊らされて、突如としていろいろ試してみたくなったりすることになる。ITCとしては、これはこれで困りものなので、うまいこと手綱を締めてかかる必要が出てくるのである。もちろん、本当に良いツールであれば、経営者といっしょになって積極的に検討すべきなのは言うまでもないが、“まがい物”も多いので要注意である。 D社で社長が自ら取りかかったのが、ネット経由で動作するPOSレジの拡張機能としてのウェブカメラであった。Y氏はカメラには疎いので、はじめは導入に消極的だったが、D社社長の言うには、駐車場のオーナーは、防犯対策としてのカメラには非常に興味を持つのだということであった。さらにD社社長は、自社の駐車場利用者がネットで一元管理できる強みを活かして、「ある駐車場で月極契約をすると、別の駐車場の時間貸しが無料になる仕組み」を考え出した。事業を営んでいないと思いつかない一種の発明(実際にも特許出願中)といえ、これにはY氏も舌を巻いた。 <4回転めの仮説> 4回転め(5回転め以降も同様)に入ると、経営トップがすでに納得し、自ら推進するフェイズに入るのであるから、ある意味(経営者からITCとしての手腕を評価していただくという意味)では、検証作業は重要ではなくなる。失敗は失敗として、そこから学び、企業文化としてITが定着しているお手伝いをするのがITCのミッションになってくるという具合に、仕事の中味が変質してくるはずである。利益向上に寄与すればIT化は成功、寄与できなければ失敗という、杓子定規な判断から脱皮しなければならないのである。事実、Y氏が関与して以降、D社の業績は順調に伸びており、もはやY氏自身も、ITの実効性という面での評価は求めることもなかった。 そこでY氏は、D社社長に、経済産業省の推進事業である「IT経営百選」に応募してみることを勧めた。「これまで積み上げてきた自社のIT文化がいかにすばらしいか、あるいは、どこが欠けているか」に関して、外部の評価を受けてみることを勧めたのである。 あたりまえのことであるが、単に儲かっているとか儲かっていないとかいう基準では「IT経営百選」には入れない。ITを有効に活用して経営の改善に結びつけているか否かが有識者によってチェックされるのである。もしこれで入賞できたとすれば、D社のIT化は一過性のものではなく、企業に文化として根づいていることが客観的にも裏付けられることになる。この提案はD社社長にも快く受け入れられ、D社の「IT経営百選」応募が決まった。 <結論> もしD社が「百選」から漏れていたら、Y氏の提案してきた数々の仕組みは「儲けにはつながっているけれど、会社の文化としては根づいてない」という評価になったわけである。しかしY氏の確信どおり、D社は、「IT経営百選」において最優秀企業に選ばれ、社名とともに評価項目毎の得点までが全国に公表された。今後のIT化の貴重な指針が得られたと、D社社長も至極ご満悦だったのは想像に難くない。 このように「検証ユニット」にしたがって、ITCが、ユーザー(企業経営者)の猜疑心を無理なく少しずつほぐすようにIT化を進めていくと、当然の流れとして企業IT化は自律成長過程に入る。またそれを外側から歓迎して支えてくれるようなムードや枠組みも、ちゃんと国が用意してくれているわけである。さすが、“e?Japan”を標榜するだけのことはあると言うべきであろう。 ITCが、国策としてのIT化推進の流れをしっかりと踏まえ、それに呼応するかたちで、中小企業企業のIT化を進めていくならば、“三方良し”の結果が待っている。「検証ユニット」の初期の段階では、ITCは単なる便利ツールとしてITを企業に伝えてよいのであるが、中盤以降では、経営者のマインドの変化も読みながら、企業文化としてITを根づかせていく意識が欠かせない。本事例はその教訓となる好例であろう。 ITコーディネータ/永田祥造 |
「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・3 |
||
2007/02/17 |
|
<はじめに>
これまでの考察で、ITCが企業と契約を結ぶに至るプロセスにおいて、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がいかに役立つか、その実践的手法について明らかにしてきた。 前回は、「検証ユニット方式」実践の第1回転めに専門家派遣制度(各都道府県に設置された中小企業支援センター等が実施する助成事業)を活用し、より潤滑に契約獲得に結びついた事例を紹介した。 今回の事例もまた、専門家派遣制度を活用した契約獲得例であるが、第2回転め以降に経済産業省の「IT活用型経営革新モデル事業」という別の公的な助成制度の活用を組み合わせて、顧客便益を大幅に向上させているところに着目いただきたい。 毎度のことであるが、仕事の発端はささいなキッカケである。本事例(C社=小売業とする)は、ITCのY氏が、共通の知人であるVさんから、販売管理システムの刷新を検討しているC社のマネージャを紹介されるところから始まる。 <1回転めの経過> 1回転めの留意点については、前回までの考察とほぼ同じであるので、詳しいことは省略するが、肝要なことはやはり、「はじめに成果ありき」を鉄則して、第1回転めにできるだけ相手にお金を使わせないことである。信用創造に重点を置く初期段階にあっては、特に相手が価値や意味を理解できない箇所にお金をかけさせるべきではない。 本事例では、Y氏は専門家派遣制度の枠内で助言事業を行ったわけであるが、C社が新たに購入しようとしていたPOSシステムについて、C社経営陣の意思決定を覆す決定的なレポートを作成した。そのあらましは以下のとおりである──。 C社はL社製のPOSシステムを採用していた。が、各端末がC社の直営する各店舗でスタンドアロンで稼働していたために、売上の情報を集めるのに、数年前まではフロッピーディスクを回収しなければならなかった。ここ2?3年は、売上情報をネット上で稼働する別のASPシステムに入力し直してサマリーだけは本社で把握できるようになったが、単品管理はできておらず、POSとは名ばかりになっていた。 それでもC社は、新規出店のたびにL社製のシステムを購入していた。同じメーカーのもので統一しておくほうがなにかと安心だというのが経営トップの判断根拠であった。他メーカーのシステムが混在すると、予測不能の混乱が起こりそうで不安だというわけであるが、これがY氏の目には明らかに不合理に映ったのである。 L社のPOSは、スタンドアロンで動いているのだし、導入年代が異なるためにソフトのバージョンがちがっているものもある。日々の売上実績はそもそも別のシステムに店長が手入力し直している現状では、他メーカーのシステムが混在したところで大した混乱が起きるはずがなかった。 そこでY氏は、将来は全店の業績をネット上で即時に一元的に管理することを命題として、それが可能なシステムにリプレースすることをC社に進言した。そのニーズを完全に満たすシステムはその時点では存在しなかったが、開発できそうなソフトハウス(M社とする)はあった。うまくいけば節約効果は数百万円に上ることが素人目にも明らかであった。そこで、1回転めの検証ステップとして、まずC社でいちばん規模の小さい店舗にM社のPOSシステムを採用し、L社にこだわる必要がまったくないことを確認したのである。 <2回転めの経過> 2回転めの留意点についても前回までの考察とほぼ同じである。すなわち、1回転めで得られた小さな信用と小さな報酬をテコに、もうひとまわり大きな信用と報酬につなげるという点である。 1回転めの助言活動で、数百万円に上る目に見える節約効果を実現したY氏は、C社のニーズを完全に満たすシステムをM社に開発させることを提案することになるのであるが、このときにY氏は、経済産業省の「IT活用型経営革新モデル事業」(以後、単にモデル事業と呼ぶ)の活用をC社に勧めたのである。もちろんC社のうち誰ひとりとしてこのような助成事業について知る者はなく、はじめはいぶかしげな反応だったわけだが、コンサルタントであれば誰でもこのような中小企業支援策についての趣意は心得ていて、その活用を促進するミッションを負っているといえるだろう。 Y氏の提案によれば、C社のニーズに完全に満たす独自のシステム──すなわち、グループとして運営する多くの店舗の稼働状況を、インターネットを介してリアルタイムに本部で一元的に管理できるシステム──を、新たにM社に委託開発すれば、満足度の低い既製のシステムを使うよりも劇的にコストが削減できるとのことである。しかも新たに開発するそのシステムは、ネットやモバイルを活用した新規性の高いシステムであったため、その開発費について国から助成金が出るかもしれないとなれば、C社にとってはたいへん魅力的な提案である。 2回転めの検証ステップとして、モデル事業に応募する前提条件として、Y氏の助言に従えば本当にC社のニーズを満たすシステムが開発可能なのかどうか、M社にプロトタイプを作成させて実地でテスト稼働させる必要があった。この過程でY氏の“まいどフォーラム”を中心としたITCの人脈(ITCには大別して経営系とベンダー系があるが、そのうちベンダー系のITC)が役に立ったことを書き添えておく。 <3回転めの留意点> モデル事業に応募するための事業計画を作成する頃には、Y氏の助言に寄せるC社の期待はかなり大きなものになっている。ただでさえ数百万円の節約効果のあるシステムが、意外に低い費用で新たに開発できることがわかり、しかもその半分を国が助成してくれるというのだから当然といえば当然である。逆にいえば、Y氏としては、この期待をここで裏切るわけにはいかないことになるから、モデル事業として採択されるかどうかが3回転めの肝となる。 通例の「検証ユニット方式」でも、ちょうど3回転めあたりが「経営戦略」であるとか「ビジョン策定」という意識を経営者側に抱かせる段階であるから、モデル事業応募を名目として、ここで事業計画作成に着手できることはY氏としても都合がよい。しかし、計画作成は必ずしもY氏の得意とするところではないため、またここでも“まいどフォーラム”を中心としたITC人脈が活躍することとなる。公的機関(この場合は近畿経済産業局)向けの書類は、書式が煩雑であったり、言い回しが微妙であったり、数字が厳格であったりするために、慣れていないと摩擦の元となるのである。そこでY氏は“まいどフォーラム”の提唱する「ちょいサポ」(それぞれのスペシャリストが自分の得意な分野に関して少しだけサポートするという意味)という仕組みを使って、別のITC(公的支援活用を得意とする)に応援を依頼したのである。 <3回転めの検証> 結果として、C社の事業計画は、競争率5倍以上の狭き門をくぐってめでたくモデル事業として採択され、Y氏はC社の期待に応えることができた。モデル事業に値すると進言したY氏の仮説が、公的機関によって検証され、実証されたわけである。ではここでY氏はお役ご免となるかというと、もちろんそんなことはない。近畿経済産業局には事業の進捗を報告するための書類は、Y氏とその仲間のITCの助言がなければ、とても中小企業家自身の手に負えるものではないし、開発委託先ベンダーとの交渉も簡単ではない。今後展開する大きなプロジェクトにとってY氏は必要不可欠な存在となったわけである。 <結論> モデル事業として採択された事業計画に基づいて、C社のプロジェクトが進行していくわけであるが、このモデル事業が完結するまでが「仮説?検証サイクル」の4回転めにあたるといえる。 さらに、モデル事業終了後も、このモデルを世間に広める(C社の知的財産となったモデルを他社向けにカスタマイズして販売)というプロセスがあり、それが5回転めになる。 このようにY氏は、小さなきっかけから始まり、だんだんと大きな回転になっていくプロジェクトにおいて、各フェイズで立てた仮説が絵に描いた餅にならないように常にコーディネイトし続けるミッションを負うことになるわけである。つまりY氏は、「検証ユニット」の描く成功パターンどおり、めでたくC社と長期に及ぶ顧問契約を締結することができたばかりか、POSシステムの有効活用を図りたい他社からも声のかかるコンサルタントとなったわけである。 本事例は、公的な中小企業支援施策に関する若干の予備知識があれば、それを「検証ユニット」にうまく乗せるだけで、実績や信用に乏しいITCであっても、よりスケールの大きいプロジェクトに参画できるという好例を示すものであろう。 ITコーディネータ/永田祥造 |
「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例・2 |
||
2006/03/12 |
|
──専門家派遣制度を活用した成功事例──
<はじめに> 独立したばかりで実績がほぼ皆無に等しいITCが、何の信用もない状態で、企業と顧問契約を結ぶに至るプロセスにおいて、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がいかに役立つか、その実践的手法について前回の論文で考察した。 今回は、「検証ユニット方式」の実践にあたって、その第1回転めに専門家派遣制度(各都道府県に設置された中小企業支援センター等が実施する助成事業)を活用し、より潤滑に契約獲得に結びついた事例を紹介したい。 前回同様、仕事の発端はささいなキッカケである。本事例(B社とする)は、新米ITCのY氏が、個人的な友人のWさんからB社の専務を紹介され、「とりあえず話しだけは聞いてやってもいい」という程度の了解で会社訪問することができたのであった。 <1回転めの留意点> 検証ユニット方式では、「はじめに成果ありき」が原則で、第1回転めにできるだけクライアント企業にコストの負担をかけないことが重要である。これは相手先がITCがについて何も知らず、まったく信用がないという前提に立っている。実際、B社の社長も専務も、Y氏とは初対面であり、経歴や実績等についても詳しく知らされず、明らかに怪訝そうな顔つきで最初の訪問を迎え入れたのである。 Y氏は、ひととおり自らの強みや仕事の進め方を説明したが、IT化の説明にはどうしても専門用語が多く混じりがちで、それが中小零細企業から毛嫌いされる原因になることも理解している。そこで、あまりITをITとして意識させず、とにかく「公的な制度であること」や「県から補助金が出ること」、「要するに制度を活用すると得だ」ということを強調し、制度の活用を薦めることにしたのである。 中小零細企業の場合、ITに対してそもそも理解が追いつかない面があるのは事実であろう。1回の訪問で、IT化のメリットを実感してもらうのは困難といえる。かといって、不安心理につけこんで「おたくは遅れてますよ、ヤバいですよ」という論調は厳に慎まねばならない。その点、専門家派遣のような公的制度の場合、中味が理解されていなくても信用されやすいのは事実である。それには甘えさせてもらってよいであろう。専門家派遣制度は、企業側の費用負担が軽い割に回数や時間がきっちりと定められていて、いったん了解されると少なくとも3?5回は会社を訪問して経営陣や担当者と十分なコミュニケーションを図れるというメリットがある。企業の負担より県の補助金のほうが大きいため、コストがかかったという意識はまったくないに等しく、Y氏がよっぽど退屈でないかぎり「なんか得した」という印象が残るはずである。だからこのフェーズでは、3?5回の訪問のあいだに「もっとつきあえば、もっと得なんだ」という確信を相手に与えられるかどうかが重要となる。そのためにも、「お金をかけずに手っとり早く改善できる工程はどこか?」を見つけ出し、派遣終了後に取り組んでみたくなるような具体的な提案を出せることが不可欠といえる。 <1回転めの検証> 検証ユニットの第1回転めでは通例、「はじめに成果ありき」の原則に基づいて、ITCにもある程度「汗をかく」ことが求められる。しかし、専門家派遣制度は純粋な助言事業であるから、専門家自身が自ら「手出し」をしてデータベースを設計したり、ホームページをデザインしたりということはしない。したがって、専門家派遣制度による助言活動を第1回転めとした場合、机上の空論が先行してしまう恐れがあると言わざるを得なくなる。そこでY氏は、「即効性があって明らかに目に見える成果」は何かと考え、キーボードショートカットを使って入力速度を上げさせたり、フロッピーディスクの使用を禁止してLAN上でファイル共有を学ばざせたり、プロバイダを低価格なところに乗り換えて通信費を節約したりといった実践型のアドバイスも忘れなかった。わずかとはいえ、それでも月額換算で1万円程度の費用が浮いたのである。さらに一方で、助言活動の成果物として、現状の基幹システムの非効率を指摘し、事務員4名の人件費の無駄が月額換算で合計10万円を超えるという実証データを経営者に伝えた。 <2回転めの留意点> Y氏は、現行のシステムが導入から6年を経過していることや、ソフトを開発したベンダーが倒産してサポートを受けられない状態であること、業務の流れにシステムが合わなくなり、必然的に数々の弊害を生んでいることなどから全面リプレースを急ぐ必要があることを痛感していた。さいわい、助言活動を通じて社長や社員にもシステムの弊害が理解されている様子であった。 B社は、文房具を中心とする事務用品を扱う卸問屋で、従業員は12名。うち4名が女性の事務員であった。事務員は、商品の梱包や棚卸しなどの業務も行うが、一日の大半はパソコンに向かってデータ処理に費やしている。業種特性として、他品種で小ロット、商品単価が低いがデータ数は大量であるため、データ入力業務の負荷が非常に高く、システムの不具合によって被るロスは非常に大きかった。 専門家派遣制度を利用すると、企業の負担する金額の3倍の報酬がITCに入ることになるので、その間は“成果>コスト”の実現は容易である。1回転めが終わった段階で得られた「小さな信用と小さな報酬」をテコに明確な課題を経営者に示すことができていれば、次に訪問する名目はとりあえず得られる。 ここではシステムの全面リプレースという大型の提案を掲げて第2回転めに入るわけであるが、今回のケースでは、この第2回転めが事実上の1回転めだと考えなければならない。すなわち、まだ目に見える形での成果が乏しいために、提案にも説得力が乏しいのである。Y氏には、リプレースを実行すれば相当の効率化ができるという確信もあったが、性急にそれを進めたのでは従業員の意識が追いつかないことも明白であった。 <2回転めの検証> そこでY氏は、後に販売管理システムとも連動することになる見積書作成システムを先行して導入することとし、その間のシステム費用(開発費まで含む)は自らが肩代わりして無償とすることにした。従来は見積書作成システムは存在せず、毎日のように営業マンがワープロソフトを使って各自で作成していたため、B社にとっては「うまくいったら儲けもの、うまくいかなくても損はしない」という筋書きである。無論、導入過程でのY氏のコンサルティング・フィーも無償である。 それだけのリスクを背負ってでも実現したかったY氏の狙いは、男性営業マンたちが新しいシステムで効率よく見積書を作成している真横で、女性事務員たちが従来のシステムで納品書発行に悪戦苦闘しているという対比を、全社員に「見せつける」ことであった。見積書を作成するために使用する品名マスターは販売管理で使用するものと同じであるし、入力手順もほとんど同じである。「これができたらあれもできる」式にB社を納得させることを狙ったのである。 見積書発行システムは、従来のシステムから商品マスターを移行する作業に手間取り、着手からサービスインまでに2ヶ月、そこから営業マンを教育し、軌道に乗せるまでに3ヶ月を要した。しかし、いったん慣れてしまうと、6年前に導入された従来システムと比べてレスポンスが格段に速く、効率の差は歴然としていたために、「早く販売管理のほうも新しいシステムに替えてほしい」という声が事務員さんたちから上がるまでに、さほど時間はかからなかったのである。 <3回転めの留意点> Y氏が最初にB社を訪問してから8ヶ月、Y氏の訪問回数は20回を超えていたが、Y氏はB社に対して直接費用を請求したことは1度もなかった。しかし検証ユニットの3回転めには、IT化は企業の中枢的な基幹業務に及んでくる。経営トップの業務改善にかける意気込みを確認する意味でも、基幹システム構築に必要な予算組みを行い、さらに自分の貢献度に見合う報酬を正当に要求していくことが肝要となるのである。 見積書作成システムを実際に動かしていれば、その仕組みを販売管理全般に応用したときにどれくらいの効率化が図れるか、それくらいのソロバン勘定は経営者の頭の中にできている。Y氏はそこへさらに、経営戦略策定という新たな着眼点を与え、中期的にはネット上での受注システムとも連動する営業支援ツールとして活用していくのだというビジョンを示した。 このフェーズでは、これから後にも常に“成果>コスト”が成り立ち続けることをアピールすることが大切である。IT化とはすなわちITを企業文化として熟成して根づかせていくことであり、外部CIOとしてのITCが抜けたらその戦略構想全体が骨抜きになってしまうというくらいの存在感を示す必要がある。少々「脅し」気味になってもかまうことはない。ここでいかに自己の役割を大きく見せられるかどうかが、継続的な顧問契約を結べるかどうかの分かれ道になるのであるから、背に腹は代えられないであろう。 <結論> 小規模事業者は、大企業のように何人もの専門家を雇うことは不可能で、せいぜい1人か2人のインテリジェンスが「よろず相談」の窓口になっているという現状は前回も述べた。フリーで独立することを志すITCは、ITを切り口として、まずこの役割を果たすことが求められるのである。われわれ“まいどフォーラム”は、そこにITCの活躍すべきフィールドがあると考え、そのために極めて有効なツールとして「検証ユニット方式」を提唱するのである。 結果としてB社では、Y氏が最初に訪問してから11ヶ月後という早さで基幹業務の全面リプレースに成功した。ハードの選定と調達、ネットワークの構築、ソフトの設計と開発、ウェブサイトのリニューアルとマーケティングへの活用‥‥等、ITに関わるあらゆるB社の意思決定がY氏のアレンジメントによって行われ、当然Y氏は、めでたくB社と顧問契約を締結することができたのである。 ITコーディネータ/永田祥造 |
「検証ユニット方式」の実践によるITC収益モデル例 |
||
2006/03/11 |
|
<はじめに>
ここでは、独立したばかりで実績がほぼ皆無に等しいITCであるという前提で、すなわち名前が売れているわけではなくブランド力もない、つまりITCという資格がある以外には何の信用もない状態で、企業に入りこんで契約を取っていくためにはどうすればよいか、その過程で、われわれ“まいどフォーラム”が提唱する「検証ユニット方式」がいかに役立つか、その実践的手法を考えてみたい。 個人で活躍する多くの独立系ITCにとって、仕事はほんのささいなキッカケから始まる。友人の勤め先、親戚のコネ、前に努めていた会社の取引先‥‥等、である。本事例(A社とする)は、新米ITCのY氏が、某異業種交流会でA社の社長と名刺交換をしたところから始まる。2度、3度と顔を合わせて世間話をしているうちに、「ちょっとウチのシステムを見てほしい」という話題になり、とりあえず会社訪問することができる運びになった。 <1回転めの留意点> 検証ユニット方式では、「はじめに成果ありき」が鉄則で、第1回転めにできるだけ相手にお金を使わせないことが特に重要となる。つまり、「お金をかけずに手っとり早く改善できる工程はどこか?」に神経を集中すればよいことになる。 とりあえず「ただ働き」の覚悟が必要で、実際に「骨折り損のくたびれ儲け」に終わることもないとは言えない。しかし、もともと情報が入りにくい小規模事業者の場合、「ちょっとここを直せばすぐに経費削減(または売上アップ)に直結するポイント」というのは案外簡単に見つかるのである。 A社の場合は、ネットによる通販がまったく活かされていないことであった。A社は、自社ブランドで海産物を製造加工販売しており、業者向けの卸と個人顧客向けの小売が半々の中堅企業である。地場では知名度もあってローカルなブランドとしては一定の地位にある。A社は過去に、大手のショッピングモールに出店したこともあるし、ホームページも相当な金額で開設している。ただ、時期が早すぎたことも災いして、コストばかりが大きくて成果が伴わなかったのである。 このように過去にやけどをしている会社の場合、そこへ「あといくらかけて‥‥」と言い出したのでは即座に門前払いとなる。しかし逆に、「ITは金がかかる」という先入観があるだけに、1円もかけずに先に喜ばせて差しあげる手段がひとつでも浮かべば前途は明るいのである。Y氏の第一印象は、「うまくやればもっと売れるのに‥‥。ああ、もったいない」というものであった。ネット販売で成功するための必須条件である「オンリーワン」をすでに満たしていたからである。 そこでまずY氏の最初の提案は、報酬を歩合制とすることであった。現に売上が上がっておらず、経費がかかっているのなら、「売上が上がらなければお金はいらない」という単刀直入な提案は受け入れられやすい。現状の売上が5、経費が10であれば、損失は5である。小学生でもわかる単純な計算だが、A社の経営者には撤退の意思はなく、なすすべもなく損失を出し続けている。ここへ、経費を10のまま、売上を5以上に上げる提案を出せば、まずは断られないのである。(売上を5のまま経費を5にする提案もできるが、これは得策ではない。)「これならどっちに転んでも損はない」という意識さえ植えつけることができれば最初の目的は達成である。 Y氏の第1ミッションは、お金をかけずにネットショップをテコ入れし、売上を伸ばすことである。0円でショップを構築する方法も考えられたが、実際に採ったのは、すでに垂れ流しになっている経費10を、自分のほうへ回させ、売上5を保証する方法であった。「もし売上が下がったら自分が身銭を切ってでも弁済します」と言い切ったのある。ここにリスクがある。リスクはあるが、小規模事業者をターゲットとして収入を上げていくなら、コンサルティングだけでは厳しいのも事実である。ある程度はプラクティカルなノウハウをもっている必要はあろう。リスクをかぶるだけでなく、汗をかくことも求められる。中小企業の経営者には、そもそもそうでないと相手を信用しないというメンタリティーがあるのだから仕方がない。逆に、このくらいの自信と熱意がなければ、ゼロからスタートでは活路は見出せないということである。 <1回転めの検証> Y氏は自らホームページのデザインを手直しした。もともとあるページをそのまま使えるので、大きな負荷ではなかった。SEO対策を施し、ログ解析用のスクリプトを組み込むなど、アクセスアップの手法としては基本的なものばかりだったが、A社はそれさえも知らなかった。ホームページの手直しが終わった頃、A社に既存の個人顧客にDMを出してもらうこととした。この際のDMの送料はY氏が負担し、文面もY氏が考えた。つまり、A社は何もしなくてよいわけである。 さいわい、DMを出した直後に売上は急増し、しかも持続した。この期間のY氏の勉強量と実務上の試行錯誤は相当なものであるが、これらのノウハウは再利用可能な自分のノウハウになるのである。ともかく、これで「このITCに任せたら売上が伸びるかも」という仮説をとりあえず検証し終えたことになる。契約によって、売上の15%を自分の取り分とすることができた。これは毎月毎年継続的に受け取れるフィーであるから、変動はあるもののありがたい収入となる。このお金を再投資して、さらなる売上アップにつなげることもできるし、その他の業務改善に取り組むこともできるのである。 <2回転めの留意点> さて、ここまでで得られたA社からの「小さな信用と小さな報酬」をテコに、ここから検証ユニットの第2回転めに入る。このフェーズでは、成果が出ている範囲内でコストを捻出すればリスクがないことを、しっかり説得することができなければならない。経費10で、売上が10なら、儲けはゼロなのだが、Y氏が来るまではマイナス5だったのであるから、儲けはゼロでも成果はプラス5なのである。プラス5のうちの2や3を再投資に回したところで、会社にとっては損になっていないという理屈をしっかり納得させることが肝要である。当面の損失を回避できたからといって、そうやすやすと感謝していただけるほど中小企業経営者は甘くないからである。「単なるお人好し」と判断されてしまったら、足下を見られて「はい、ありがとう。さようなら」で終わる可能性が高い。ゆえに、少なくとも3ヶ月から半年がかりで業務改善と呼べるレベルの経営改革に取り組む意思があるかどうか、そのために多少のコストを捻出する気構えがあるのかどうか、トップの腹づもりを確認しておく必要が出てくる。 Y氏は、ネットショップの売上アップをテコに、受注処理の効率化に踏みこむことにした。これまでの受注処理は、電話でもFAXでもメールでも、とにかく受注用の紙(決まった様式もない)に書き写して、それをそのまま加工ラインにまわすという原始的なやり方だったからである。少なくともネット受注に関しては、そのまま加工指図書に出力でき、完了と同時に送り状や納品書に出力できる仕様とし、その後、電話やFAXによる受注をネット受注に合わせるかたちにすれば、失敗する心配がないのでA社の納得性も高まると考えた。これなら顧客データベースの一元化もできて一石二鳥である。 <2回転めの検証> 受注処理のIT化は、着手から9ヶ月かかったが、たいへん大きな成果が出た。Y氏は、はじめにネット受注をシステム化し、電話・FAX受注のステップと対比してどれほど効率がいいかをまざまざと見せつけた。この「見せつける」という意識が小規模事業者には重要である。机上の空論を嫌うメンタリティーがある反面、鼻先にぶら下げられた獲物には俊敏に食いつくからである。いったん見せつけておけば、「この受注処理システムにはだいたい○○円かかりますけど、それ以上の効率化ができるっていうの、わかりますよね?」くらいで通じるものである。 ネット受注をシステム化するにあたっては、システム開発のための費用がかかり、これはネットショップの売上改善で得られる歩合制の報酬を上まわるため、ここまでのY氏の収支は赤字であった。しかし、すべての受注処理のシステム化を成功させて得られる報酬を合わせればわずかながら黒字となる。検証ユニットでは、2回転めが終わるまで(期間にして約1年)は、儲けは期待しないほうがよいかもしれない。 <3回転めの留意点> 受注管理が軌道に乗る頃には、A社は、他の業務のIT化を別の業者やコンサルタントに相談しようとは思わなくなっている。逆にいえば、ここまでのステップで辛抱に辛抱を重ね、信頼関係を築いておくことが極めて重要である。3回転めには、IT化は企業の中枢的な基幹業務に及んでくるはずだからである。 Y氏は、ここまであえて口にしなかった「経営戦略」であるとか「ビジョン策定」「中長期計画」という小難しい言葉をようやく使い始める。経営者の側に戦略という意識がなかった間も、Y氏の頭の中には当然、常に将来ビジョンが用意されていたわけであるから、ここで過去と将来の整合性を語っておけば、さらにY氏の印象は良くなるのである。はじめは聞く耳を持たなかった部課長クラスも、ここまで見せつけられれば、いよいよ本腰を入れて取り組んでくれるものである。 このフェーズでは、これから後にも常に“成果>コスト”が成り立ち続けることをアピールすることが大切である。「恩を売る」というといやらしく聞こえるかもしれないが、継続的な顧問契約を結びたいのであれば、自分が抜けたら元の木阿弥に戻る危険性を臭わせておく努力はやっておくべきであろう。その上で、基幹システム構築に必要な予算組みを行い、さらに自分の貢献度に見合う報酬を正当に要求していくことである。 <結論> 小規模事業者は、大企業のように何人もの専門家を雇うことは不可能で、せいぜい1人か2人のインテリジェンスが「よろず相談」の窓口になっている。(それさえも見つけられない気の毒な事業者も多い。)フリーで独立することを志すITCは、ITを切り口として、まずこの役割を果たすことが求められるのではないだろうか。われわれ“まいどフォーラム”は、そこにITCの活躍すべきフィールドがあると考え、そのために極めて有効なツールとして「検証ユニット方式」を提唱するのである。 結果としてA社では、Y氏が最初に訪問してから1年半後という早さで基幹業務のシステム化に成功した。その手腕を評価されたY氏は、めでたくA社と顧問契約を締結することができ、システム運用を中心としながら幅広く経営革新の相談を受け続けているのである。 ITコーディネータ/永田祥造 |
けちけちIT化のすすめ |
||
|
はじめに
日本の中小企業やNPO法人でのITの活用は中堅、大企業にくらべて、大幅に遅れているといわれています。特に、関西では、「IT化の有効性」の認識が関東に比べて低いという調査結果もあります。また、「ITの理解、リテラシ」も中堅、大企業にくらべて低い場合が多いのではないでしょうか。 「ITの理解、リテラシ」の低い組織に「IT化の有効性」の認識をしてもらう最良の方法は、ともかくITを使って、「役に立った=コストが下がった、売り上げが上がった」などと実感してもらうことではないかと思います。 では、ともかくITを使ってみてもらうにはどうしたらいいでしょうか? ITに限らず、自分の知らないもの、新しいものを買うときには、不安があるものだと思います。 「ITってほんまに役に立つの?」 「パソコンやソフトを導入しても、使いこなせへんのちゃうか?」 こういった不安を乗り越えやすくするための一つの方法は、初期コストをできるだけ下げることではないかと思います。 「けちけちIT化」とは? 本稿でご紹介する「けちけちIT化」(造語です)は 「ま、使いこなせへんかっても、これくらいならええか!」 といえるレベルの初期投資でスタートできるIT化のアプローチのことです。 とくに、われわれMAIDOフォーラムの活動圏である関西の人は総じて「けち」だといわれています。「怪しいものには金をださない。値切れるものはとことん値切る。」という感じです。 これは、ITCが小規模企業を支援する上で最初のハードルになっている場合も多いのではないでしょうか? ここでは、このハードルを越える一つのツールとして有効な、「けちけちIT化」のちょっとした実践例をご報告したいと思います。 「けちけちIT化」実践のポイントは以下のようなことではないかと思います。 ・顧客の実行可能性が最重要 ・成果は小さくてもいい ・まずは、今あるものをつかう ・必要最低限の性能でいいので、無料、格安のものを導入 ・労力、ストレスは最小限に ・短期集中 まず、楽に、IT化の成果を実感してもらうことが目的なのです。 「けちけちIT化」の具体例 以下、あるNPO法人でのIT化を支援した事例の導入部分をご紹介します。 【テーマの選定】 ヒアリングの結果、いくつかテーマがありましたが、NPOの会報誌を発行しているチームの責任者のIT化の意欲が高く、メール(メーリングリスト)を利用するだけで業務効率の向上が見込めたので、これをテーマとしました。 【IT化前】 会報誌の編集は以下のような流れで行われていました。 原稿を電話、口頭で10人程度に依頼 手書き、または家のパソコン、ワープロで作成された原稿をFAXや手渡しで回収 これを、編集チームでFAX、電話でやりとりしたり、会議を何回か開いて編集、チェック 版下を切り貼りで作成して印刷に出す 【IT化の提案】 この編集作業をメーリングリスト上でやることを提案しました。 具体的には、会報誌のメーリングリストをつくり、そこで原稿をMSWordでやり取りして完成まで持っていくというやり方です。 具体的には、yahooグループという無料のメーリングリストを使いました。メールアドレスをもっていない人にはyahooメールという無料のメールアドレスを、パソコンをもっていない人には、パソコン購入とインターネット接続をしてもらいました。 【IT化後の成果】 この方法をとったことで、これまで、編集中に何回も会議をもって作業していたのがほぼすべて在宅で可能になり、ボランティアの方々の負担か大きく減りました。 また、電話や口頭で連絡がつかないなど、滞りがちだった流れも、メールでの非同期コミュニケーションになることでスムースに進むようになりました。 【その後】 このことで、メールをつかって、仕事をすることのメリットが理解され、他のチームや、プロジェクトでもメーリングリストが利用されるきっかけになりました。 その後のサイクルでは、ホームページ改訂やイントラネット構築へと進んできています。 「けちけちIT化」の詳細 最初にあげたポイントについて、上記を例に具体的にご説明しようと思います。 【顧客の実行可能性が最重要】 テーマ選択にあたっては、顧客とITCで実際に実行できる、という見通しがあることが必須です。具体的には「やる人=やる気があり、やれる人」がいて、途中に引っかかりそうなハードルをITCがクリアする(または、クリアしてもらう人をつれてくる)手段をもっていないと失敗します。上記事例では、責任者の方がパソコンの利用に非常に意欲的で、過去にMS-Dosのパソコンを使っていたと聞いて、大丈夫だと判断しました。 また、yahooメールやyahooグループについては、私自身他の案件ですでに使ってことがあり、その特徴や操作を把握していました。 【成果は小さくてもいい】 他にテーマとして、ホームページの改訂や、会員データベースの整備などがあり、こちらの方が、成果としては大きなものが期待できましたが、実現までの期間、必要なリテラシや労力、ソフト購入費などを勘案して、後回しにしました。 最初は、「ITの有効性」を理解してもらうことが目的ですので、まずは、楽に、早く成果がでることが最重要です。 【まずは、今あるものをつかう】 パソコンやソフトの新規購入には大きな金銭的負担がかかるので、所有のハードとソフトについてヒアリングをしました。すでに、チームの数名の方はパソコンで原稿を清書したりしていました。 また、個人的にメールを利用している人もいました。 すでにスキルを持った人がいるということは、支援するITCの労力を考えると非常に重要です。 【必要最低限の性能でいいので、無料、格安のものを導入】 キーメンバーの方はパソコンを持っておらず、購入したいと考えていました。 型落ちの格安のパソコンと中古のディスプレーを代理で購入しました。 メールアドレスや、メーリングリストは無料サービスを利用しました。 こういったとき、気をつけることは顧客の予算は最大限に利用することです。 たとえば、パソコンに10万だす気があれば、5万で本体を調達し、プリンタ、ADSL、Officeソフトまで購入してしまうことです。決して、5万でできますよ。と本体だけ購入すべきではないと思います。 【顧客の労力、ストレスは最小限に】 パソコンの初期設定や、インターネットの契約、メールやメーリングリストの登録などは、ITCが代行しました。 設定や登録は1回限りなので、初心者の方の支援の場合は最初はスキップする方がいいと思います。 こういった作業は、ITCが代行すれば短時間で終わりますが、そうしないと、そこでくじけてしまうことが多いからです。 必須スキルとして、MSWordでの作成とメールに添付して送る方法、開く方法のみに絞ってマスターしてもらいました。 【短期集中】 人間のやる気は時間の経過とともにどんどんなえてきてしまうのが普通ではないでしょうか? そのためにはITCの労力は最初に短期集中で投下すること、短期に完了するための段取りと必要にせまられるような開始タイミングを選ぶといったことが重要だと思います。 上記事例では、パソコンの購入、設定やメーリングリストの開設もできるだけ急ぎ、キーになる方には半日対面でMSワードやメールの使い方をサポートしました。また、メールアドレスの登録やインターネットプロバイダーとの契約などは、本人と話をしたその場でパソコンに向かい、必要事項を聞きながら手続きを代行したりしました。 結論 これまでMAIDOフォーラムで研究しきてている「検証ユニット方式」とは、まず最初に実行し、成果をだし、その次に考えて、さらに投資をして、実行し、成果をだすという拡大スパイラル式にIT化をすすめようという考え方だと私は理解しています。 「けちけちIT化」は独立ITCが、「検証ユニット方式」を用いて、小企業やNPOなどの支援をする場合の最初のパターンの一つとして有効ではないかと考えます。 「ITの理解、リテラシ」や「IT化の有効性」の認識の低い組織にいきなり、経営戦略や情報化戦略の話をしても、2・3回の会議、いや講義で、「わからん、やる気なくなった」となるのが落ちです。そういう組織に対しては、今あるものや無料のものを利用して、最小限のお金と労力で、ともかく成果を実感してもらえることが有効です。 まず、「IT化の有効性」を認識してもらい、それをきっかけに「ITの理解、リテラシ」とモチベーションを向上させつつ、成果を出しながらレベルアップしていくことが可能になるからです。 しかし、こういった支援をする場合、ITCは「こうすべき」とわかっているだけでなく、実際に顧客が成果をだせるまでの具体的な手段とスキルをもっていることが必要です。 たとえば、無料や安価に利用できるソフトやサービスの知識と利用スキル、ヒアリング、ファシリテーションや小さなプロジェクト推進のノウハウ、などです。 さらに、コスト負担を抑えるには、アドバイザー制度など公的支援の仕組みの活用も有効でしょう。 これから、そういった分野についても、実践ノウハウのご報告ができればと考えています。 ITコーディネータ/布 俊晴 |

